Sunday 24 April 2016

万年文化部女子のわたしがボクシングを始めた話①

タイトルの通り、二か月前から月に1、2回のペースでボクシングをやるようになって、今日で4回目になる。学生時代にずっとボクシングをやっていた友人が、趣味で定期的に開いているボクシングの会に参加させてもらっている。このわたし、これまで部活はずっと合唱部、大学でもアカペラサークルで、肺活量が必要になるからといってランニングや腹筋・背筋をさせられたことはあるものの、撫でるレベルでしかなかった万年文化部女子である。スポーツは体育の授業で軽くやる程度で、唯一卓球は好きで台湾留学中に週一でやっていたこともあり、マイラケットも持っているが、とはいえ基本的には運動する習慣がなく、ここ数年は確実に運動不足の状態で体力が落ちている。じゃあどうしてボクシングなんて激しいスポーツをしようと考えたのか、という話です。

きっかけは安藤サクラ主演の映画『百円の恋』。冒頭、緩み切った横腹をボリボリ書きながらスナック菓子を片手にテレビゲームをしているのが、安藤サクラ演じる主人公の「一子」である。昼夜逆転のニート生活を続けていた一子は、映画が終わるころには見違えるように引き締まった身体で女子ボクサーとしてリングの上に立っている。簡単に言うと、その変貌ぶりと野良犬精神に胸を打たれて「おれもボクシングやってみてえ!」となったのだが、そこまでわたしを駆り立てさせたこの映画について先に少し紹介したい。(ネタばれします)

たるみボディだった一子が筋肉質な健康ボディを手に入れるまで、一体彼女に何があったのか。この映画は、間違っても干物女子がダイエットに成功してキラキラ系女子の仲間入りをし、イケメン彼氏をゲットするみたいな薄っぺらいラブコメものではない。一子を見かねた姉と喧嘩して家を飛び出し、一人暮らしと百円スーパ―での夜勤バイトを始めた一子は、そこで一癖も二癖もある人たちに出会う。うつ病を患って辞めた元店長、無駄話の多い同僚の下衆おやじ、傲慢で事あるごとに小言を吐く新店長、毎晩廃棄商品を盗みに来る元店員の女。彼らはみな、何か個人的な問題を抱えているがために、社会から疎外されたり、他人と円滑なコミュニケーションができずにいたりする人たちだ。そしてきっとそのことに自分自身気づかずにいるか、認められずにいるか、あるいはもうすべて受け入れて片隅に生きている。一子もまた、自堕落な生活から抜け出せずにいた、三十路過ぎのいわば「負け犬」女である。

バイトの帰り道、通りかかったボクシングジムの前で、熱心にトレーニングする男の姿に見入ってしまった一子。その男は時折百円スーパーにやたらとバナナばかり買いに来るが、彼も一子の存在を意識するようになり、自身の現役最後の試合に見に来るようにと一子にチケットを渡す。男は試合に負け、ジムからも姿を消してしまう。様子を見に来た一子を見学希望者と勘違いしたジムのおじさんの計らいで、思いがけずボクシングを始めることになってしまった一子。そして男と再開し、あれよあれよと大人の関係に発展するが、そのうち男はまた別の女のもとへ行ってしまう。

一子の過去について、映画の中では取り立てて触れられてはいないが、32歳の彼女に恋愛経験がほとんどないということが想像できる。男とのデートに行く日、わざわざ買い足した下着を身に付けて鏡の前に立っている一子はいじらしくもあるが、パンツのゴムにお腹の肉が乗っかっていてなんとなくみじめである。普段だぼだぼのTシャツにジャージという格好の彼女が、男と会う時だけは花柄のゆったりとしたワンピースを着ている。言わずもがな、一子は男に恋して淡い期待を抱いていたわけだが、悲惨なことに、試合を見に行った帰り道、一緒に来ていた下衆親父にホテルへ連れ込まれてレイプされてしまう。それが一子の初体験だった。

ニートになってしまう前にも、おそらく一子にはなにか挫折のような経験があり、そのたびに逃げ腰で負けを認め、実家の散らかった狭い自室へと滑り落ちることになったのだろう。男との微妙な関係が始まって一緒に暮らすようになり、ささやかな幸せを感じた一子だったが、男はほいほいと色っぽい姉ちゃんについていき、一子は再び一人暮らしの部屋にとり残される。欲望のはけ口にされ、好きな男にも捨てられてしまった“野良犬”一子は、文字通り切歯扼腕してボクシングのトレーニングにのめり込んでいく。女子プロボクサーとして試合をするには試験に通らなければならないが、その年齢制限が32歳。一子にとってはラストチャンスだった。見事合格した一子がリングに上がったとき、相手のするどいパンチを何度も喰らい、倒れ込み、それでも必死に立ち上がり、しがみついていこうとする姿を見れば、だれでも胸を打たれずにはいられないだろう。「一度でいいから勝ってみたかった」と嗚咽ながらに声を上げる一子は、結局のところみじめな負け犬なのかもしれないが、こんなに逞しい負け犬をわたしは今まで見たことがないと思う。無我夢中で自分にとっての人生の底辺から這い上がろうとした一子は、わたしがこれまで観たどんなヒロインよりもかっこよくて、美しくて、逞しかった。

そんなこんなでわたしは、この映画に、一子に影響されて、ボクシングを始めたのであります。ざっと書いて映画の話だけで長くなってしまったので、実際にボクシングをやっててどうのこうのの話はまた次に分けて書こうと思います。




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